A子は、夕食の準備をするより息子と話そうと思い、出前を取った。
出前が届くまでの間、A子は息子に次のようなことを伝えた。
「今まで、あなたのことに口出しをし過ぎてごめんね。これからは、なる
べく口やかましくしないように気をつけるからね。そして、お母さんの助
けが必要な時は、いつでも遠慮なく相談してね。あなたのことを信頼して
るからね。」
息子は本当に嬉しそうな顔をして、「わかった、ありがとう」と答えた。
やはり息子は、母親に信頼してもらいたかったのだ。
「今日は、なんか変だなー。いいことが続くなー。」と息子が続けた。
A子も幸せな気持ちになった。
間もなく出前が届いた。
A子「お母さんは、お父さんが帰ってくるのを待つから、先に食べてね。」
息子「えっ?どうしたの?いつもは先に食べるのに。」
A子「今日は、お父さんといっしょに食べたい気分なのよ。お父さん、お
仕事頑張ってくれて、疲れて帰ってくるからね。
一人で冷めた親子丼たべるの、寂しいでしょ。」
息子「じゃー、僕もお父さんといっしょに食べる!三人で食べる方が楽しいでしょ。」
A子「ほんとうにあなたは優しい子ね。お父さんに似たのね。」
息子「なんか変だなー。いつもお父さんのことを、『デリカシーがない』と
か言ってるのに。」
A子「そうよね。お母さんが間違ってたのよ。お父さんは、優しくて男ら
しくてたくましくて、・・・男の中の男よ。」
息子「勉強しないと、お父さんのような仕事くらいしかできなくなっちゃうんでしょ?」
A子「ごめんね、それもお母さんが間違ってたのよ。お父さんの仕事は立派な仕事。
世の中の役に立ってるのよ。それに、お父さんが働いてくれてるおかげで、
こうやってご飯食べたりできるんだからね。お父さんの仕事に感謝しようね。」
息子「お母さん、本当にそう思う?」
A子「うん、思うよ。」
A子がそう言った時の息子の笑顔は、その日で一番嬉しそうな笑顔だった。
子どもは本来、親を尊敬し、親をモデルしてに成長する。
A子の言葉は、息子に対して、「お父さんを尊敬してもいいよ」という許可
を与えたことになる。
息子はそのことが何よりも嬉しかったのだ。
しばらくして夫が帰って来て、三人で冷めた親子丼を食べた。
自分の帰りを待っていてくれたことが嬉しかったのか、夫も上機嫌だった。
冷めた親子丼を「うまい、うまい」と言いながら食べていた。
夫が風呂に入っている間に、息子が眠りについた。
A子は息子の寝顔を見ながら、心の中で「ありがとう」を唱え始めた。
その言葉の影響なのか、心の底から感謝の気持ちが湧いてきた。
「この子のせいで私は悩まされてると思ってきたけど、この子のおかげで
大切なことに気づけた。本当は、この子に導かれてたのかもしれない。」
そう思っていると、息子が天使のように見えた。
いつの間にか、涙があふれてきた。
(ほんとに今日は、よく泣く日である)
間もなく電話が鳴った。
出てみるとFAXであった。
母の字で次のようなことが書いてあった。
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A子へ
今日のことお父さんから聞きました。
お父さん、話しながら泣いていました。
お母さんも嬉しくて涙が出ました。
お父さんは、「70年間生きてきて、今日が一番嬉しい日だ」と言っています。
晩ご飯の時に、いつもお酒を飲むお父さんが、
「酒に酔ってしまって、この嬉しい気持ちが味わえんかったら
もったいない」と言って、今日はお酒を飲みませんでした。
次は、いつ帰ってきますか。
楽しみにしています。
母より
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「晩酌を欠かしたことがない父が、お酒を飲まなかったなんて。」
自分が伝えた言葉が、父の心をどんなにか幸せな気持ちで満たしたのであろう。
そんなにも自分のことを愛してくれていたのか。
A子の目からは、またもや涙があふれていた。
「どうした?泣いてるのか?」
風呂から出てきた夫が聞いてきた。
A子は、その日起きたことをすべて話した。
朝、B氏に電話をかけたこと。
午前中は、父への恨みつらみを紙に書きなぐったこと。
午後、父に電話して和解したこと。
「そうか、お父さん、泣いておったか。」
夫も、目に涙を浮かべながら聞いてくれた。
そして、息子がいじめっ子から謝られたこと。
「ふーん、不思議なこともあるもんだな。Bさんのやり方は、俺にはよく
分からんけど、おまえも楽になったみたいでよかったな。」
続けてA子は、泣きながら夫に謝った。
そして夫も、泣きながら聞いたのだった。
次の日、A子はB氏に報告して、心からのお礼を伝えた。
朝一番で夫からも電話を入れていたようだ。
B氏「ご主人からも電話もらいました。お役に立てて何よりです。
あなたの勇気と行動力を尊敬します。さて、これからが大切です。
毎日、お父さまとご主人と息子さんに対して、心の中で『ありがとうございます』とい
う言葉を唱える時間を持って下さい。
それから、ジャンポルスキー博士という人が書いた『ゆるすということ』という本がおすすめです。
その日の夕方のことである。
「ただいま!」元気な声で息子が帰って来た。
「お母さん、聞いて!今日ね、友達から野球に誘われたんだ!今から行ってくるから。」
息子はグローブを持って飛び出していった。
A子の目には、またもや涙がにじんでいた。
声が詰まって、「行ってらっしゃい」の一言が言えなかった。
(THE END)
ドラマ仕立てでお伝えするために、A子さんの心理描写については、憶測で書かれた部分もあります。
また、登場人物の職業などの設定は、意図的に事実とは違う設定にしてあります。
しかし、ストーリーはすべて実話です。
この話は、私達の潜在意識の中のマイナス感情を、クリーンに掃除してくれるような話だと思います。
もし今回の話を読んで、「あの人をゆるそう」とか「誰々に感謝しよう」と思われた方は、
ぜひ勇気を持って実行されることをおすすめします。
もしかしたら、人生最大の勇気を必要とするかもしれませんが、その勇気を使う価値が
あるかもしれませんね。
今、この話を読み終えられたということも、単なる偶然ではなく、意味のある必然かもしれません。
それから、A子さんのように、すぐに結果が出るケースばかりではありません。
誰かをゆるし、誰かに感謝するには時間がかかることもあります。
また、ゆるすことができて、感謝することができてから、結果に現れるまでに、
時間がかかることもあります。
いずれにせよ、原因を解決すれば、結果は必ず変わります。
「原因と結果の法則」は、すべての人に働く法則だからです。
ありがとうございました
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